車一台がようやく通れる山間の一本道。目指す[哲多和牛牧場]が近づくにつれ標高も上がり、肌に触れる空気が清々しく感じてくる。小高い山々に囲まれたこの牧場は、石灰質の土壌から湧き出る天然水にも恵まれた、まさに理想的な自然環境であり、そこで飼育されているのがこの「千屋牛」です。

  千屋牛のルーツを探れば、産業の少なかったこの土地で、役牛(=耕作や運搬)として飼育されていたことにはじまります。農場長の小沢延也さん曰く、「[犇屋]のロゴにもなっている通り、基盤乗りもできる頭のいい、温厚な牛なんです」。だからこそ、ここで飼育される牛は鼻輪つけることなく飼育出来るそう。「ストレスこそ、肉質の最大の敵」と徹底した環境作りは、生産者の豊富な知識とプライドが見え隠れする所でもあります。

例えば、生後3カ月までの仔牛はカウハッチと呼ばれる小屋で個体別に管理されるのだが、その床に敷くのは抗菌・消臭性の高い杉や檜のおがくずを使用します。それらは全て新見市の間伐材から作られたもの。安全性はもちろんのことだが、地域の産業と手を組み支え合う「地域全体での環境作り」であり、いま必要とされるビジネスモデルでもあります。
黒毛和種のルーツであり、日本最古の蔓牛(系統牛)として名を馳せる「千屋牛」。
その肉質は、繊維の細かい筋肉に脂肪が沈着する黒毛和種特有の素晴らしさと、さっぱりとした脂と上質の赤身を合わせ持つのが特徴です。その安全性をさらに高めるため、登録認定前より収穫後農薬不使用や非遺伝子組換飼料に切り替えるなど、ブランディングを後押しする取り組みも行われてきました。

現在は、イネやワラなどの飼料をコンピューター管理で与えるシステムを構築。高品質かつ安定供給を目指しています。さらには、刈り取ったばかりのイネを包装し、発酵させて作り上げるホールクロップサイレージ(WCS)も積極的に導入。「乳酸菌を持った飼料を与えることで、消化機能が高まるんです」と、品質向上にも余念がありません。
恵まれた飼育環境ながらも、徹底した生産者のプライドこそが、「千屋牛」を守り続けてきました。そんな取り組みを新見市も全面的にサポート。最近では、市が開発した発情発見システムと監視カメラによる、遠隔飼育も。「おかげでいつでも携帯から牛の様子が見られるようになりましたよ」。
三つの牛舎の他、豚舎、鶏舎を擁す[哲多和牛牧場]。広大な施設であればあるほど、排泄物処理への取り組みは必須であり、「酪農でもっとも重要なこと」と小坂さん。現在は新見市の支援により、牧場内に[哲多堆肥配給センター]が併設されました。周辺の畜産施設も合わせると、1日30トンもの排泄物がここに運び込まれ、有機農業に最適な堆肥へと生まれ変わっています。
牛フン、鶏フン、豚フン、そして間伐材から生まれたおがくずをバランスよく混合し生産される堆肥は、周辺の農家へ分配。その見返りに畜産に欠かせないワラを譲り受けるという、自然に無理のない図式が成り立っています。その一部は、『すずらん堆肥』として一般販売もされているのが、品質の良さが口コミで拡がり、今では「足りないぐらい売れる」という嬉しい悲鳴も。地域と連携することで、互いの生産コストを抑え、なおかつ品質の良いものを育てることができる。そんな理想の循環型農業モデルが確立されています。
また牧場の牛舎の屋根に太陽光パネルを設置し、牛舎内の電力をまかなうことにも成功。自然と調和しつつも、コスト削減や生産者への負担軽減を実現できたのは、市のサポートなくして語れません。
食肉市場としては日本で2番目の事例となった、世界レベルの品質管理(IS0 9001認証を取得)システムを持つ[岡山県食肉センター]と手を組み、2008年に「千屋牛」取り扱いがスタートした。岡山県外でなかなかお目にかかれない希少牛であったが、牧場→食肉センター→実店舗までの導線を整理することで、直送でしかなし得ない、安価な価格の仕入れを実現。それが[犇屋]の最大の強みです。
また一頭買いを行うことで、サーロインやリブロースなどの王道部位から、三角バラやハネシタロース(ざぶとん)など希少な部位までをフォロー。現在は直営店、FC店舗を構えます。
そんな店のロゴマークには、新見市の伝統芸能“千屋牛の碁盤乗り”を採用、そして屋号には「お店がいつもお客様でギュウギュウ詰めの犇めいていて、繁盛して欲しい」という願いを込めた。また[哲多和牛牧場]への現地研修なども積極的に行い、産地と飲食店の垣根を越えた交流も盛んに行っています。