リアス式海岸という天然要塞に守られた関西屈指の良漁港「勝浦漁港」。こと生鮮マグロにおいては日本一の漁獲高を誇り、全国屈指のマグロ基地としても有名です。1本の幹縄に多数の枝縄と釣り針を付ける伝統な延縄漁法を重んじてきた漁港としてのあり方や尊厳が、この確固たる地位を築きあげました。ただ近年、海外から輸入されるマグロの増加や、全体的な漁獲高の減少により、勝浦漁港として次なる一手が求められているのが現状です。

「我々の親父世代までの仲買人は、水揚げされたマグロにシールを貼って横に流すだけで、1億円プレイヤーになりえた時代でした。確かに勝浦のマグロは素晴らしい。ただ当時は、その力に頼りすぎていたんですね」と、株式会社ヤマサ脇口水産の代表締役社長の脇口光太郎さん。

現在は廻船問屋も営む氏だが、時代の変化と既成の水産ビジネスの相違を肌で感じできたんだそう。「生マグロは高く評価されますが、保存が効かないという点も。ただ、たくさん獲れる時期には価格が急落する。結果、漁師さんたちの収入が逼迫することに。それが漁港全体の悪循環に繋がっていたんです」。だからこそ、勝浦の水産ビジネスの次なるステップには、「労働環境改善」こそが急務であると、水産改革に乗り出したのです。
マグロの水揚げが最盛期を迎える、10月〜翌春までのおよそ半年間。勝浦漁港も戦場の如き賑わいを見せます。この時期は特に出荷作業に追われるため、おのずとマグロもランク付けされていくんだそう。本マグロなど名高き高級食材は東京・築地などに出荷、そして勝浦内で加工されるマグロも、“売れる部位”以外は、廃棄処理されていきます。生鮮ゆえに「ロスの多い」が容認されてきたのが実情ですが、ここでは限りある資源を大切にしようという動きがあるのです。

取材班が訪れたこの日。直営店である[ほんまや]の料理人も招き、試食会が開かれました。この日のお題は、“廃材”。ここでいう廃材とは、いままで捨てられてきた部位のことです。例えば、腹骨と呼ばれる内蔵回りの軟骨には、ブリブリに脂ののった身がたっぷり。これ、唐揚げなんかにすると酒の肴として最高のポテンシャルを発揮します。それもそのはず、いわいるトロの部分なので、そのうまさはいわずもがな、調理次第であらゆる可能性を秘めている部位なのです。それらを再認識することで、より幅広い楽しみ方が出来るという利点に加え、この見直しなどの積み重ねが、コストダウンにも繋がっていくのです。
株式会社ヤマサ脇口水産は、長年培ってきた経験と約8年の歳月を経てマグロ専門の特殊凍結技術を開発しました。「冷凍すれば体内の水分が膨張し、細胞が壊れてしまうというのが、既存の冷凍技術の欠点でした。それを解凍すれば、旨みが水分となってドリップしてしまうのは仕方ないことだったんです。この新技術を簡単に説明すれば、それを“させない”のが、ポイントです」。また、流水で簡単に解凍できる扱いやすさも魅力の一つ。いまではこの画期的な冷凍技術が、県の補助授業として認められまでになりました。

そんな製法を採用したマグロ「海桜鮪」は、超低温での長期保存が可能とあり、夏場でも安定して供給することができます。価格変動の激しいマグロの値段を、年間計画でコントロールすることもでき、結果として前述の漁師たちの収入の安定へと繋がってきます。さらに「漁港全体が活性化すれば、さらに多くのロスを減らすことができるんです」と脇口さん。
街を巻き込んだ大きな構想ながら、最終的には、消費者によりリーズナブルな価格で本物の勝浦マグロを提供できるという仕組みなのです。
本マグロ、キハダマグロ、メバチマグロなど、様々な魚影が揚がる勝浦漁港ですが、マグロを知り尽くす脇口さんをもってして「これぞ勝浦の味」と太鼓判を押すのが、活き〆のビンチョウマグロなのです。鮮度の高いものは透明感のある淡いピンク色で、ネットリとしたセクシーな甘みが持ち味です。比較的安価な食材として回転寿司でも重宝されていますが、この上品な口当たりは、甘みのある酢飯と段違いの相性みせます。そんな素材本来の持ち味を生かした“地元流の食べ方” が出来るのも、[ほんまや]の強みなのです。

もちろん漁港直営であり、“最旬”のマグロが水揚げされたままの鮮度を保ち店へと運ばれてきます。トロなど王道メニューから、カマ、頭肉、ホホ、肉目玉など、なかなかお目にかかれない希少部位をラインアップし、なおかつリーズナブルに提供できるのが、[ほんまや]たる由縁であり、漁師+産地+飲食店を組み合わせた、新しいビジネスモデルなのです。